上村一夫 原画イベント開催

お知らせ

ichiru と上村一夫  港街編

ichiru の 5thアニバーサリーを記念して、漫画家・上村一夫とのコラボレーションイベントを開催します。上村一夫は、ヤングコミックという漫画誌の表紙絵を11年もの間描いていました。

色鮮やかに描かれた表紙絵を中心に、洋服と港をテーマにセレクトした原画を展示します。

1969年〜1980年に描かれた11年間は、ichiruが集めている洋服の年代とも重なっています。

その原画にイメージされるような洋服を店内に並べ、コーディネートして、絵に花として洋服が添えられたらと思っております。

その他、わたくしササキが所有しております上村一夫にまつわる様々な物も含め、店内にはお楽しみを多数ちりばめてご用意しております。

更に、三崎からは「蒸籠食堂かえる」、三浦からは「BAR そなちね」という素敵なお店でも上村一夫のお楽しみをご用意しておりますので、それぞれの店舗のアカウントからの発信をチェックして、お立ち寄りいただけたら展示の内容がより深まるかと思います。

上村一夫との出会い

私が1番はじめに読んだ上村一夫の漫画は「関東平野」でした。

その出会いはさかのぼること14年前の2010年、私は高円寺という場所で ichiru のプロトタイプのような、MADE IN JAPAN の古着屋を営んでいました。

当時27歳。日本の事を全然知らなかった私は、日本のことをもっと知りたいと思い、見たことのない映画、聴いたことのない音楽、読んだことのない漫画などを大量に吸収している時でした。

その流れの中で手に取ったのが「関東平野」でした。

ひと言で説明できるようなキラキラとした内容のある物語ではありませんが、それはネガティブなことではなく、私にとってはとても魅力的で、心を掴まれ、じわじわとふつふつと、身体が充されるような言い表す事のできない感じのあたたかい心地が広がっていったことを覚えています。

およそ20年のキャリアの中で絵のタッチに変化も確認できますが、「関東平野」のそれは私の好みのタッチで描かれていたということもあり、心を離さなかったようにも思います。

月産400枚というとてつもないペースで描かれた作品の中には、大変なブームを起こしたり、後世に多大な影響を残した作品が数多くあります。その中でも静かな物語とも言える「関東平野」が、じぶんをかたち作るピースの大きな1片であると感じます。

その時のじぶんの状況と、高円寺という場所が、しぜんと上村作品に引き合わせたのだと思います。

上村一夫について

私は1982年生まれです。物心ついて漫画を楽しむようになった頃、70年代に隆盛りゅうせいを誇った上村一夫の作品には触れる機会がありませんでした。

人間のことを普遍性のある鋭い目線で描かれた作品には、現在も多くのファンに支えられ続け、その名が霞むことが無いばかりかヨーロッパ圏では漫画作品が新たに出版されたり、賞を受賞したりと、尚も活躍の羽が休まる事がありません。

私もそういった中にいる小さなファンのひとりであります。

たくさんの漫画を読んでさまざまな上村エピソードに詳しい方も多くいらっしゃる中、私はほどほどです。だから臆さずに、私と一緒に上村一夫を知る旅に出てみてほしいと思います。

これから知る人と、長年のファンの方との間に、私はいます。今ならではの価値観で、点を線にして上村作品を新たに観る事ができるイベントを意識して構成しました。

今回「ichiru と上村一夫 ~港街編~」でセレクトした原画は、漫画からではありません。
ヤングコミックの表紙絵として描かれたものを中心に選びました。

上村一夫オフィスに保管されている全てのヤングコミック表紙絵を見ました。

11年という時の流れに映り込む時代の雰囲気が閉じ込められていて、描かれた11年間の流れ全てがまとめてひとつのアート作品なのではないか、という感動を受けました。

アートは、時代と共に素材や表現方法を変化させながら新しいものがうみ出されてきたという歴史があります。

印象派と言われるモネやルノワールは、外で光を表現した事が新しい技術でした。今の私たちからしたら何も驚くことのない表現方法ですが、その時代の素材としての発明はチューブ絵の具でした。

絵を外で描く事ができるようになった初めての時代でした。

アンディ・ウォーホルも大量につくることや技術的なことだけではなく、今までになかった素材の蛍光ピンクを効果的に使ったことが新しい表現として、多くの人の心を動かしました。

そういった意味で、上村一夫が11年間の中で描いたヤングコミックの表紙絵は、表現方法や使う道具を変化させ、時代をも映し描いているという点でもアートとして語られても全くおかしな事ではないのだと思います。

ぜひその辺にも注目して原画の隅々まで楽しんでいただきたいです。

今回は漫画原稿の原画展示はありませんが、長いキャリアの中で漫画の作風やタッチなどにも変化がたくさん確認できます。期間中は ichiru で漫画も自由に読んでいただけます。

絶版となり入手が難しい漫画が多いので、試しに読むことのできるいい機会になるかと思いますので、遠慮せずにじっくり読んでみてくださいね。

座りやすい椅子も用意しております。遠慮せずにゆっくりと鑑賞してもらえたら嬉しいです。

ichiruと上村一夫、原画と洋服展示

ichiru は、ちいさな港街のちいさな古着屋です。

そのため、美術館のように多くの原画を展示することは難しいです。
でも、鑑賞する数が少ないと、一点一点に集中することができるはずです。

そこまで広くないお店が会場であるということ自体、ポジティブなことのように感じます。
空間というものは、広ければ広いほど非日常的な感覚が強くなりますが、程々の広さである ichiru なら落ち着いて見る事ができるため、きっと絵との一体感をより強く確認できるはずです。

原画との距離が近いのも、魅力のひとつです。
目の高さに揃えられ、じっくりしっかり心ゆくまで素晴らしい原画を鑑賞できます。

ichiru と上村一夫には、時代背景という共通点があります。
上村一夫の描く女性がまとっている洋服は、 ichiru に並んでいる洋服とそっくりで、登場人物が着ている姿を思い浮かべるイメージが湧いてきます。

会期中、それぞれの原画からイメージされる洋服のコーディネートをセットで展示します。美しい原画に洋服が花のように添えることができたら、それはきっと立体的に上村一夫を感じることができるはずです。

上村一夫という大きな名前と並ぶため、ハードルがとても高いものとなるようにも思いますが、よくよく考えてみると私たち ichiru があらたに生み出すものは何もありません。

70’s につくられたクオリティの高い洋服が、しぜんと上村一夫の原画に馴染むはずだと信じています。ぜひご期待くださいませ。

コーディネートされた洋服はもちろん、店内に並ぶ洋服は全て購入する事ができます。原画に添えたイメージをそのまま日常に持ち込める特別なものです。

ヴィンテージの洋服というのもある種、美術品ともいえます。購入をしなくても洋服と共に原画を鑑賞してきっと楽しんでいただける、またと無い機会です。

Details

原画をイメージしてコーディネートした洋服は会期後の発送となります。ご了承くださいませ。その他の洋服はその日にお渡しできます。お買い物も含めて楽しんでいただけたら幸いです。

上村一夫のことばの展示

上村一夫の仕事は漫画作品が中心でしたが、多岐に渡り活躍していた足跡が残されています。

その中でも、エッセイなどの文章で残されたことばが、とっても良いのです。私が感じるその良さとは、漫画作品ともリンクしているとも思えるからでしょう。

上村一夫の漫画作品を読んでいると、なぜこんな気持ちや目線で物語を描けるのかと思わずにはいられない表現を沢山見ることになります。

その表現方法の正体というか、解釈のヒントのようなものが文章内のことばから感じる事ができます。

漫画、エッセイ、上村一夫のことばに触れると「物事を咀嚼そしゃくして説明する能力がとても高かった」のではないかと思いあたります。

漫画でのセリフは全体的に決して多い方ではありません。その少ないセリフで、心の輪郭に触れたような、目の前の人間とのコミュニケーションで味わう生々しさが作品全体を貫いています。

人の所作、表情、光や影、季節や風景など、まるで絵を詩のように使い様々な情緒を描く技術が、文章を書くときの目線・表現力をひとつの解としても間違いではないことを証明しています。

魅力的で美しい絵を描き、普遍性を持つ物語を紡ぐ事ができた裏付けとも言える、上村一夫が残したことばや漫画内のセリフを抜き取った「上村一夫のパーソナルコーナー」を設け、そこを中心に展開する「ことばの展示」も見所です。

そして、後述しますが、登場人物の意味深なセリフをおみくじのフォーマットに印刷したお土産もご用意しております。絵を鑑賞する要素として、作中・エッセイなどからことばを選びましたので、楽しみのスパイスとして味わっていただけたらと思います。

エッセイを読み返していると、ことばを扱う人との交流も沢山記されていました。

その中でも、向田邦子とのエピソードが印象に残っています。

脚本・向田邦子のテレビドラマ「寺内貫太郎一家」に出演した時のことです。

役の名前に納得がいかずに不服を申し立てた上村に対して、向田邦子は笑って済ましてしまったそうです。

特に何がというインパクトはありませんが、個人的に印象的なもので、余談でございました。

様々なアイテムの展示

現在入手が困難となっている漫画を中心としたアーカイブアイテムを、店内随所に散りばめて展示します。漫画、レコード、Tシャツなど、過去の全てのものではありませんが、私が所有しているものを空いてるスペースに配置します。

有名なエンターテイメント施設でも探す楽しみが提供されていると聞いたことがあります。「隠れミッキー」ならぬ「隠れ一夫グッズ」をコンプリートしてみてはいかがでしょうか。

古着というのも探す楽しみが多く含まれていますね。

古着屋ならではのちいさなゲームとしてたしなんでみてくれたら嬉しいです。

物販

展示を見終わった後のお待ちかねといえば、もちろん物販ですね。
最初からお待ちかねだと言っても良いかもしれません。

展示物販の高揚感は、そのとき観たアートから感じた何かを持って帰れるからなのだと思います。


急に現れたのは「60センチの女」の主人公・ムーのキャベツヘッドです。
キャベツヘッドって、はじめて言いました。

このキャベツヘッドの原画はマグリッドを彷彿とさせる風景画 × SFキャベツの素敵なものです。

漫画「60センチの女」は、1977年に連載が始まり、全6巻の単行本にもなっています。
私もとても好きな作品のひとつです。

漫画の中でムーの育てるキャベツがキーアイテムとなっています。
とっても美味しいという描写も出てくるこの「ムーのキャベツ」を、ichiru で販売します。

三浦半島はとても温暖な土地で、農業にとても向いている為、野菜が美味しいです。会期中はちょうど春キャベツの季節で、収穫が盛り上がっている時でもあります。

上村一夫オフィスも野菜とのコラボは初めてとおっしゃっておりました。

この先もきっと無いはずです。ぜひこの機会を楽しんでいただけてたらと思います。

Details

※1日にキャベツを仕入れられる数は少量となります。その日のキャベツはなくなり次第終了となりますので、ご了承くださいませ。


 

続いてご紹介したいのは「ちいさな複製画」です。
ちいさくとも、上村一夫の存在感は大きく感じますので、ご安心くださいませ。

絵と額のコーディネートにも注目していただきたいと思います。蜘蛛の巣の中の女性とアンティーク調の雰囲気のちいさな額が狭いエリアを想像させて、世界観に輪郭をもたらせています。

左の絵、砂と涙のモチーフは、上村作品の中に繰り返し出てきます。こちらは貝殻が手前に配置され、意味を感じさせられます。そこに白銀の額が哀愁に深みを加えています。

右の絵と額もとても趣があります。オーブリー・ビアズリーを彷彿とさせ、イラストレーターとしての魅力たっぷりのタッチで描かれています。黒い額がここまでマッチするものがあるのかと驚きました。

 

いやまって、ありました、黒額フルマッチイラストこれ以上なしのやつ、ありました。

私がこの絵で1番好きなところは、足の指が出ているところです。私の変な感想よりも、この黒い額と絵のしっくりときている感じは、ことばになりません。

竹が黒く塗られているのでしょうか。とっても良いですね。

このほかにも「ちいさな複製画」を販売します。大きなポスターにしてもとっても映える上村一夫の絵ですが、ちいさな額に収まった絵もとっても風情のある美しい佇まいです。

Details

※「ちいさな複製画」はそれぞれ一点のみとなります。なくなり次第終了となりますので、ご了承くださいませ。


 

さらに、今回のメインビジュアルとなったポスターの販売です。

デザインは三﨑に拠点を持つデザイナーさんにやっていただきました。印刷物は金の部分がピカピカしています。

とっても素敵です。

こちらの原画ももちろん展示しますので、じっくりご鑑賞していただきたいです。

ichiru が今回選んだ絵は「多くの人があまり選ばない」ものだと言われました。
きっと、褒め言葉だと喜んでおります。

「多くの人があまり選ばない」というのは、テーマの違いからだと思います。そう言った意味で、ファッションと港というテーマで展示イベントを開催できるというのは、あまり観る機会のなかった原画を観れるということなのだと思います。

そういった記念的なイベントのお土産として、ポスターはとてもぴったりです。
程よいA3サイズで、お値段も1,200円 (税込) とお求めやすいです。


 

ここからは物販ではありませんが、「おみやげ」としてお持ち帰りいただけるアイテムをご紹介します。

先ほど少し触れました「マンガ ことばのおみくじ」をご用意しました。

たくさんの原画を展示するスペースが無い中、何をどのように選べば楽しんでいただける内容になるのか思いを巡らしました。今もその答えが出たとは思ってはおりません。

漫画家としての上村一夫の輝きを伝えたいという気持ちは常にありますが、いざ漫画原稿を ichiru で展示するとなると少し雰囲気が違うように感じました。

そこで、絵からではなくことばから漫画に興味を持ってもらうこともできるのではないか、とチャレンジのような気持ちで「マンガ ことばのおみくじ」にしてみました。

改めて漫画を読み直し、8種類のセリフを抜き取りました。きっと、漫画を知ってる人も、まだ読んだことのない人も、それぞれに楽しめるはずです。

私も改めて読み直したおかげで、現在のじぶんが何をどう感じるのかを知れてとても面白かったです。
そんなきっかけとなれたら嬉しいです。


 

更に特別なお土産もご用意しました。

アンニュイな女性の表情がとっても印象的なこちらの絵を、トートバッグに印刷しました。
¥10,000- 以上お買い上げの方、限定40枚となります。

こちらの絵は「謎のポストカード」とのことです。どういった経緯でなんの為に描かれたものなのかが分かっていないそうです。そういった背景が、想像力を刺激してグッときますね。

もちろん、グッズになることも初めてとの事です。

’74 と書かれているのが古着屋としてはとてもグッとくるポイントであるとともに、ichiru が揃えている洋服の年代とも繋がっていますので、なんだか意味深です。

私は上村作品の中で好きなものが70年代中頃に多いのですが、物語だけでなく絵に何ともいえない好ましさが含まれていて、見ているだけで良い気持ちになります。

Details

¥10,000- 以上お買い上げの方が対象で、限定40枚となります。手刷りのため、多少のずれなどがあるかと思いますが、その加減も楽しんでいただけたらと思います。

かえる と そなちね

ひと通りお知らせし終わったと思いきや、まだ、あります。

小規模ながらも ichiru 店内でもモリモリな内容となっておりますが、ichiru のある三崎というちいさな港街は電車の駅がなく、足を運んでいただくのにかなりの時間を頂いてしまいます。

でも私たち ichiru は、観光において「遅い」ということは価値のひとつだと考えています。
アクセスについて詳しい記事を書いておりますので、参考になれたら幸いです。

 

せっかくお時間をかけてきていただけたのなら、ichiru という場所の他に目的があったら旅の思い出に深みが出るはずだと思い、上村一夫にピッタリなお店にご協力いただきました。

先にもご紹介しました「蒸籠食堂かえる」と「BAR そなちね」の2店舗で、上村一夫を体験していただけます。どんなご用意があるのか、かんたんにお伝えします。

(コースを組むのにも前述のアクセス記事が押すすめです。)

 

「蒸籠食堂かえる」は三﨑港にあり、ichiru から歩いて5分の距離です。
お店のことが丁寧に書かれた記事があります。
記事にもある通り「かえる」の場所は元スナックで、とても雰囲気があります。

カウンターが4〜5席、テーブル席が2席と、ちいさなお店ですが店内のおもむきだけでなく、料理とお酒、店主の気さくな対応で、あっという間に時間が過ぎていきます。

蒸籠せいろから出る湯気も「かえる」のアイデンティティーの大きな割合を占めるもののように感じます。湯気に出迎えられていただく三浦野菜の味は格別です。

そんな店内で体験できる上村一夫のお楽しみは以下になります。

  • ご飲食した方に上村一夫のコースターを配布
  • 料理にまつわる複製画の展示
  • 複製画をセレクトした漫画タイトルを読める
  • グッズの販売

コースターの絵柄、複製画のセレクト、これらのお知らせは「かえる」のアカウントからお知らせがあるかも知れないし、ないかも知れません。ぜひ、アカウントをフォローしてチェックしてみてくださいませ。

Details

イベントにご協力いただいておりますが、飲食店となりますのでご理解をよろしくお願いいたします。「美味しくて、たくさん食べてしまった!」という皆様の姿を想像しております。


 

「BAR そなちね」は三浦海岸駅 徒歩3分のところにある、かっこいいバーです。

表現が合っているのか自信がありませんが、オーセンティックでクラシックな印象を持っています。
15時から営業しているというのも個性の一つです。

カウンター10席というのもグッときます。混み合う時間などは座れないこともありますが、楽しみましょう。焦ってはいけません。

品のある店内と同じく、店主の接客からも品格が滲み出ていて、ついつい飲み過ぎてしまうのが唯一の欠点‥‥‥いえ、私の欠点であります。

私と同様に上村一夫もお酒が大変好きでした。
上村一夫も羨むそんな場所でのお楽しみは以下となります。

  • 作品をイメージしたオリジナルカクテルのご案内
  • シャーロック・ホームズシリーズ第4弾ウィスキーのご用意
  • オリジナルカクテル又は第4弾ウィスキーをご注文いただいた方にオリジナルコースターの配布
  • 上村が挿絵と表紙を担当したホームズ全集BOXの展示
  • グッズの販売

コースターの絵柄のお知らせは「そなちね」のアカウントからお知らせがあるかも知れないし、ないかも知れません。ぜひ、アカウントをフォローしてチェックしてみてくださいませ。

Details

イベントにご協力いただいておりますが、バーとなりますのでご理解をよろしくお願いいたします。「飲み過ぎちまったぜ!」という皆様の姿を上村一夫と重ね合わせて想像しております。

最後に

ファンの一人として、ファンになって以降に行われたほとんどの原画展に足を運んだ私が今回のイベントを客観的にみても、少し趣向が違うように感じます。

いつもと違う上村一夫の原画イベントを許容してくださった上村一夫オフィスには感謝しかありません。同時に、ご協力してくださった2店舗にも感謝しかありません。

私は上村一夫の作品が大好きです。

幼少期には神童と言われ、のちに「昭和の絵師」と称され、現在では世界的な評価もされていることもあり、さまざまな評価・評論がなされています。

そんな中、漫画作品の評としてよく言われるのは「人間の業を肯定している」ということです。
業というのは、人間のどうしようもなさの事だと理解しています。


この表現を聞くと立川談志のことを思い出します。彼も「落語は業の肯定」と発言していました。
その立川談志が出囃子でばやしに使っていたのは「木賊刈とくさがり」という曲名です。

木賊というのは植物で、ブラシに加工したり煎じて薬にしたりして売っている人がいたそうです。あまり裕福ではない庶民に寄り添ったものがタイトルになっているとも言えそうです。

この中に「業の肯定」という発言の源泉と、芸のスタイルが隠されているような気がします。

上村一夫の話に戻ってきますので、お付き合いくださいませ。

落語というものは、講談というものとの対比の中にありました。講談は武士の輝かしい話なのに対し、落語は庶民のどうしようもない事を笑いとばす、という違いがあります。

小説と詩にも同じようなヒエラルキーがあったと聞きます。おそらく、さまざまな表現活動の周りには、一般的に知られていない闘いのようなものが存在しているのだと思います。

漫画というものも初めはチープな扱いでした。私の子どもの頃にも、親からそんな扱いを受けていたことを覚えております。これらのことを考えると、当時の漫画と上村の表現は、落語と談志のように、漫画と上村としてフィットしたのではないかと想像します。

 

詩といえば、友人でもあった阿久悠が上村に対してことばを残していたもので特に好きな文章を引用したいと思います。


劇画を描きはじめたばかりの頃、彼はさかんにいったものである。

「劇画というのはね。阿久さん。コクンとうなずくというのが描けないんですよ。」

2コマをつなげば、コクンとうなずいたように見せることは出来る。
しかし、コクンとうなずく速度を伝えることは出来ないということである。

その速度によって、人生を肯定しているのか否定しているのかという機微を伝えることが出来ないということである。上村一夫は、劇画家としての出発点から、擬似映画としての劇画を否定していたのである。連結する時間を拒絶し、じかんを抽出することに劇画としての意味を認めたようである。

上村一夫の劇画は動かない。
だからこそ、その奥に多くの世界を持っているということが出来る。
しみじみと思うのである。

上村一夫は詩人だなあと。

詩人であるからこそ、動かせることを拒否できるのだなとあらためて納得したりするのである。


私は上村一夫の作品が大好きです。
それは、人間のどうしようもなさを優しく肯定してくれるからのような気もします。

ichiru と私は巨人の肩に乗ることしかできませんが、このイベントをきっかけとして、あたらしく知ったり、改めて知ったりする機会が開たとしたら嬉しく思います。

お会いできるのを楽しみにしております。
ご来店をお待ちしております。

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