2023年 3月26日から ichiru 店内で写真の展覧会がはじまります。
写真家・阿部明子さんの「土地をぬう道、ヤトがくる」と名付けられた展覧会です。
なんだか、いがらしみきお の漫画を彷彿とさせるタイトルです。
阿部さんは風景を記録する写真をたくさん撮っています。写真自体が記録という性質を持っているのに改めて記録する写真と言ったのは、そういった感じがするからです。
見たものを撮るというより、あるもの・そうなっている状態を撮っているという感じがします。ひと言でランドスケープ写真と言ってしまうには決まりが悪いように思うのです。
そのなんとも言えない感じが展示表現にも表れています。額に納めた写真を壁に吊って展示するスタイルではありません。ちいさなブロックに写真が貼られていて、そのブロックが、普段と変わらない ichiru の店内に無数に散りばめられます。
ラックの下や、手に取る事がむつかしい上の方、隠れるように置かれたものなど、洋服の間をぬって配置された写真は、まるで洋服を纏っているかのようにも見えます。全てではありませんが、ハギレが貼られているものもあり、実際に洋服を纏ってもいます。
ブロックは、一個 ¥2,000- で購入することもできます。ぜひご検討くださいませ。
期間中は写真家の阿部さんが、写真展を多くの方にご覧いただけるよう、平日のichiruをオープンしているというのも魅力のひとつです。
土日だけでは中々ichiruに行けないよ、と思っていた方、ぜひこの機会にお運びくださいませ。洋服のお買い物も、もちろんできます。
改めてタイトルに触れていきたいと思います。タイトルに含まれている ”ヤト” は漢字で “谷戸” と表現されます。地形を指すことばです。
三浦半島には南北に連なる広大な三浦丘陵があります。きゅうりょうというのは、山よりも起伏が少ないなだらかな地形のことを言うそうです。よく分かりませんが少し高度の高い平地ということでしょうか。解説したら余計に分かりにくくなってしまいました。
働いた分もらうことができる権利のあるお金のことではないということだけは分かりましたね。
その丘陵が長い時間をかけて侵食されてできた谷状の地形のことを、谷戸というのだそうです。谷じゃダメなのか、私だってそう思いました。その気持ちは我慢しましょう。
長い時間をかけて侵食された、という長い時間というのがケタはずれでちょっと面白いです。約2万年前の最終氷期の頃の雨水や湧水が溶けることによって侵食が進み、崩落土が地形を形成していったとのことです。
ちょっと何言ってるか分かりませんが、谷戸には、なんだか今まで触れられてこなかったロマンがありそうだね、ということです。そして、人が歩いていくには不便な場所という意味を踏まえると、今回の展示スタイルは立体的に谷戸を表現しているようにも感じられる空間になっています。見る・鑑賞することには不便な展示になっています。谷戸 ichiru 、夜露死苦。
そして見逃せないポイントをもうひとつお話ししておきたいと思います。
三浦市は人口減少により消滅指定都市になっています。消滅指定都市という概念に多くのツッコミを入れたくもなりますが、ここではスルーしておきましょう。
人口減少の主な原因は、広大すぎる三浦丘陵だとされています。開発余地がなくなり人口が減り続けているとのことです。ここにもツッコミを入れたくなりますが、大切なのはツッコむ事ではありません。
大切なことはただひとつ。今までのことを維持していくために何かを壊したり、何かを新しく作ったりする事が本当に必要なのかを本気で考えたのだろうか、と自分自身に問いかける事です。
今あるものを最大限に活用しきっているのだろうか。その問いの本質は、環境を変化させれば状況を改善できると信じすぎているのではと、己を立ち止まらせる事です。環境よりも考え方を変えることで視点が変わり、見えないものが見えるということはたくさんあるのではないでしょうか。
街として、そこに住む人の経済活動にはマイナスになってしまっているポイントを、違う視点から見るサポートをしてくれるのが、今回の阿部さんの展示なのではないだろうかと思います。
三浦の人も、三浦にゆかりのない人も、不思議で体験したことのない何かを掴めるような展示になっています。ご来店、お待ちしております。
会期 : 3月26(日)〜5月14(日)
作家在店 : 月・火・水・金 11:00 〜 15:00
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